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2018年度司法試験予備試験 再現答案 行政法

設問1

  1. 「行政庁の処分」の意義

「処分」(行政事件訴訟法(以下行訴法とする)2条3項)とは、公権力の主体たる国または公共団体の行為のうち(①公権力性)、その行為によって直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められている行為(②直接・具体的な法効果性)を指す。

  1. 本件勧告

 Y県よりは、本件勧告はいわゆる行政指導であり、法効果を伴うものではないから、上記②の要件を欠き、「処分」には当たらないと主張することが考えられる。

 確かに、本件勧告は、「条例25条4号の定める不適正な取引行為をしないこと」を求めるものにすぎず、Xの営業上の地位に法的効果を与えるものではない。しかし、抗告訴訟の目的は、国民の権利救済にあることからすれば、法的効果が認められない行政指導であっても、それと同視し得る程度の不利益が名宛人に生じるならば、例外的に②の要件を満たすと解すべきである。

 そこで検討するに、本件勧告後には特段の制裁が予定されておらず、法効果性が認められる行政処分がされる可能性はない。そして、本件勧告は外部に公開されるものではないが、融資を停止される恐れがあるし、行政法規範に違反したことが知られれば、消費者取引を行っているX者は顧客の信頼を失うことが予想されるところ、このような損害は事後的に回復することが困難である。そうすると、本件勧告は、法効果と同視し得る程度の不利益をXに与えるものである。さらに、本件条例49条が、勧告の際に、意見陳述の機会を名宛人に認めていることからすれば、本件条例は、本件勧告に関して保護の必要性が高いことを想定していると解される。

 したがって、本件勧告は、法的効果と同視し得る程度の不利益をX与えるものであらから、に例外的に②の要件を満たす。よって、本件勧告は、抗告訴訟の対象たる「処分」に該当する。

  1. 本件公表

Y県よりは、同様に法効果性が認められないという主張が考えられる。

本件公表は、その外部的公開性がある点で、本件勧告よりもXに与える不利益は重大なものである。また、本件公表に後続する行政処分は予定されていないから、本件公表が行政庁の最終的な意思表明と言える。そうすると、本件勧告の場合と同様に、権利救済の実効性という観点より、例外的に②の要件を充たすと解すべきである。

 したがって、本件公表は、「処分」に当たる。

設問2

  1. 実体的違法

(1)25条4号のいう不適正な取引行為が存在しないこと

まず、Xとしては、Xの従業員の一部が事実(ア)(イ)という一連の勧誘行為をしたことは、25条4号に該当しないと主張することが考えられる。まず、(ア)の発言は、事実を告げているにすぎず、虚偽の事実を述べているわけでなない。そして(イ)の発言は、セールスマンという地位に鑑みれば、日常会話の範疇にあるというべきである。そうすると、一連の勧誘行為は、「消費者を威迫して〜正常な判断ができない状態に陥らせる方法」には当たらない。

(2)裁量権の逸脱濫用行為

次に、25条4号に該当する行為があるとしても、「消費者の利益が害されるおそれがある」と判断したことは、裁量権の逸脱濫用行使として違法である。

 まず、「消費者の利益が害されるおそれがある」という抽象的な文言を用いているのは、消費者の利益保護という観点から、いかなる場合にその利益が侵害されたと言えるかの判断は、専門技術的な判断を要するから、その要件の充足について裁量を認める趣旨である。

 次に、要件裁量が認められるとしても、社会通念上著しく不合理な判断をした場合には、裁量権の逸脱濫用行使として違法である(行訴法30条)。

 本件において、Xは、49条に基づく意見陳述において、今後は適正な勧誘をするように従業員に対する指導教育をしたと述べており、反省の態度を示している。さらに、不適正な勧誘行為をしたのは、Xの従業員の一部である。一方で、本件勧告が与えるXに対する不利益は、重大なものである。そうすると、要件の充足を認めた判断は、社会通念条著しく不合理な判断であり、裁量権の逸脱濫用行使として違法と解するのが相当である。

  1. 手続的違法

本件勧告が「処分」に当たるとすると、行政手続法上の不利益処分に該当するところ、Yは十分な理由附記をしていない。しかし、本件勧告は、地方公共団体であるY県の自主条例に基づく処分であるから、行政手続法は適用されない(行政手続法3条3項)。したがって、手続的瑕疵はなく、この点から違法とされる余地はない。