LAW ROOM

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2018年度司法試験予備試験 再現答案 憲法

第一 法律上の争訟性の意義

 「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)とは、①当事者間の権利法律関係に関する争いであって、②法律を適用することで、終局的に解決することができる争いことである。

第二 Xの憲法上の主張

  1. 処分1

(1)処分1は、違憲である地方自治法(以下法とする)135条2号に基づく処分であるから違法無効である。

(2)憲法19条は、思想・良心の自由を保障しているところ、「思想・良心」とは、信条・学問に準ずる確固たる世界観・価値観を内容とする。そして、Xの陳謝の意を表明したくないという利益は、これに含まれる。法135条2号はこれを強制するものであるから、Xの上記利益を制約している。

(3)特定の思想良心を強制することは、思想良心の自由に対する直接的制約に当たることから、直ちに違憲となる。そして、法135条2号は陳謝という特定の信条を強制するものであるから違憲である。

  1. 処分2

(1)処分2は、議会における本件発言を理由とするものであるから、憲法21条に反するものである。

(2)議会において本件発言をする自由は、表現の自由として保障される。そして、処分2は、本件発言を理由にXに除名処分を課すものであるから、Xの上記自由を制約するものである。

(3)議会における意見発表の自由は、自己の政治的見解を発表し、民主主義に資するという社会的価値を有する重要な権利である。また、除名処分は、その議員たる身分を喪失させる処分であるから、その判断は慎重になされるべきである事柄である。

(4)したがって、処分2が、本件発言をしたことを重視したことは、重視するべきでない事項を重視するものとして、裁量権の逸脱濫用として違法である。

第3 反論

  1. 処分1

部分社会の法理より処分2については司法審査の対象とならず、②の要件を欠き法律上の争訟に該当しない。したがって、処分1に関して違憲と判断される余地はない

  1. 処分2

まず、処分1と同様に部分社会の法理より処分2に関する争いは、法律上の争訟に当たらない。

さらに、処分2は、本件発言のみならず、その後の謝罪命令に従わなかったことを理由とするものであるから、表現の自由に対する制約は部分的であるから、裁量の範囲内の処分であり適法である。

第四 私見

  1. 処分1

(1)まず、部分社会の法理の肯否について見解をのべる。部分社会の法理は、団体内部の事情に関しては、団体自治を尊重し、司法審査の対象としないという見解である。些細な争い事に関してすべからく法による解決を求めると、団体自治の実効性を欠くことになるから、部分社会の法理は肯定的に解すべきである。しかし、限界がないとすると、団体内部の少数者の人権が侵害されることになる。そこで、団体の構成員の私生活上の自由を不当に制約する場合には、司法審査の対象となると解すべきである。

(2)本件において、処分1は、謝罪命令を強制するものにすぎず、謝罪命令は単に事態の真相を告発し、謝罪の意を表明するものにすぎず、思想・良心の自由を制約するものではないから、Xの私生活上の自由を不当に制約するものではなく、司法審査の対象とはならないというべきである。

  1. 処分2

(1)処分2については、Xの議員たる地位を剥奪する処分であるから、Xの私生活上の自由を制約するものとして、司法審査の対象となるというべきである。したがって、法律上の争訟生は認められる。

(2)そこで、処分2は裁量の範囲内か検討する。

反論のとおり、確かに処分2は、本件発言があったことだけを理由とする処分ではない。しかし、それに後続する謝罪命令も本件発言を理由とするものであることからすれば、一連のXの態度は、本件発言を理由に謝罪命令を強制されたことに起因する。そうすると、処分2は、主として本件発言を理由として下されたと解すべきである。

 そして、本件発言の自由は、表現の自由の中核に位置付けられる自由であることは、原告の主張のとおりである。

 したがって、憲法が保障する重要な権利の行使を理由に不利益な処分を課す処分2は、重視すべきではないことを重視したものとして、裁量権の逸脱濫用行使として違法であると解すべきである。